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第22話 二人の男、一つの獲物③

Auteur: 花柳響
last update Dernière mise à jour: 2026-01-05 06:00:50

「あ……っ」

 短い悲鳴と共に、蒼くんの指が私の肌から引き剥がされる。

 たたらを踏んだ私の背中がぶつかったのは、岩のように硬い胸板だった。上質なスーツの生地越しに、暴力的なまでに熱い体温が伝わってくる。

「莉子、お前は俺のもんだ」

 征也は私を片腕で抱きすくめたまま、空いた手で蒼くんの胸ぐらを掴み上げた。

 グッ、と襟が締まり、蒼くんの顔が苦痛に歪む。高価なネクタイが絞まり、眼鏡がずり落ちた。

「お前に何ができる? 莉子の母親に最高の病棟を用意して、これからかかる莫大な費用を全部持つと約束したのは俺だ。サラリーマン風情が、個人的にその額を出せるのか? お前の薄っぺらな『救済』で、進行する病気が止まるとでも思ってるのかよ」

「天道、きさま……っ」

 逆上して掴みかかろうとした蒼くんの肩を、いつの間にか後ろに控えていた部下たちが抑え込んだ。

「神宮寺様、いけません!」「今は退きましょう!」

 必死の形相でなだめる部下たちに囲まれ、蒼くんは苦虫を噛み潰したような顔で眼鏡を直した。その目にはもう優しさの欠片もなく、獲物を横取りされた猟犬のような、暗く粘着質な悔しさだけが澱んでいる。

 彼は部下たちに引きずられるようにして、足をもたつかせながら出口へと追いやられていった。去り際、私に向けられた視線は、執着そのものだった。

「失せろ。二度と俺の敷地に入ってくるな。莉子はもう、俺が買ったんだ。こいつの意思も、身体も、時間も、全部な」

 征也は汚いものでも触るように、掴んでいた手を離した。

 重厚な通用口の扉が、部下たちの手によって開かれる。

「次にその指一本でも莉子に触れてみろ。神宮寺の家ごと消し去ってやる」

 力なく夜の闇へと追い出された蒼くんの背後で、分厚い鉄の扉が冷酷な音を立てて閉ざされた。

 ドン、という重い音が腹の底に響く。

 残されたのは、耳鳴りがするほどの静寂と、征也の荒い呼吸。そして私の身体を包む、ミントと煙草の入り混じった男の匂いだけだった。

 ◇

 外界との繋がりが断たれた瞬間、ホールは密室に

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